絶対的権力者の暴走から「内部統制の限界」を考える

去る6月16日、宝飾品やブランド品を販売する「クロニクル」が上場廃止決定に関するプレスリリースを公開しています。

元々低水準で推移している株価ですが、当リリース発表後には、更に下回り、一桁台まで落ち込んでいます。

ちなみに、上場廃止決定の2日前に、このようなリリースが出ています。

経緯をざっと眺めた限りでは、なんだか混沌としていますね。
ただ、過去の出来事をたどっていくと、トップマネジメントによる不正会計に行き着きました。

同社では一体何が起こったのでしょうか?
『クロニクル)』の不正会計について見ていきましょう

概要について

今回の事件を簡単にまとめると、以下3要素で構成されています。

●営業貸付金 … 308百万円
●営業出資金 … 904百万円
●預かり在庫 … 410百万円

以上、合計1,622百万円について、前代表取締役会長(以下:前会長)が主導になって不正会計を指示します。

ところで、今回の前会長ですが、創業者の一人であり、過去に会社経営が苦しい時期を乗り切ることに成功したという実績から、社内における影響力が絶大だったそうです。

事実上、『ワンマン経営』ということで、他の役職員・監査役が異論を唱えられるような状況にはなかったようです。

このような絶対的権力者が、好き勝手に振る舞ってしまう。
自然と『内部統制の限界』というフレーズがちらつきますね。

営業貸付金(P5)について

端的にまとめると、営業貸付金(608百万円)の内訳は、

●300百万円 ⇒ 返済あり
●308百万円 ⇒ 返済なし

となっています。

後者の300百万円を債務放棄による損失計上を避けるため、以下の内容で「金銭消費貸借契約書」を作成することでごまかします。

●300百万円 ⇒ 2008年10月末日を期限
●308百万円 ⇒ 2011年9月30日を期限

上記契約書を作成したのは、2009年8月なので、事後的に日付をさかのぼったということになります。

また、会計監査人が営業貸付金の残高(実在性)確認を行う訳ですが、「残高あり(つまり借入がある)」と回答させていたようです。

この点から、悪質であることが見えてきます。

営業出資金(P8)について

前会長が、会社の資金を自分に還流させるため、懇意にしていたファンドマネージャーと共謀します。

簡単にまとめると、

●シンガポールにファンドを3つ組成
●前会長の会社が、ファンドに出資
●運用を行わず、前会長に還流(指定口座に振込、手渡し)

という要領です。

当然ながら、ファンドでの運用を行っていませんが、まるで投資実態があるかのような報告書を定期的に提出することで、営業出資金の評価損を計上することを防いでいたようです。

預かり在庫(P11)について

最後3つ目の不正の舞台は、時計販売を営む子会社です。

さて、子会社で商品の実在性を確認したところ、410百万円については実在性がない(過大計上)していることが判明しました。

その要因をまとめると、

●前会長が、自ら販売を試みるとして商品を受け取ったが、帳簿上はそのまま計上し続けた。

●売価<簿価の場合、売却損を計上しなくてはならないが、それを防ぐ名目で、売上計上せずに預かり在庫を計上し続けた。

となります。

本件に関しても、会計監査人より預かり在庫の預け先に対して確認状が送付されていましたが、「在庫あり」と回答させていました。

また実査の際には、預け先に対して類似する別商品を渡すことで会計監査人を騙していたようです。

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「和牛オーナー制度」で有名な『安愚楽牧場』が2011年に経営破綻したことはご存知かと思いますが、最近になって旧経営陣の隠蔽工作についてニュースで報道されていると思います。

安愚楽牧場の場合、事業報告書において明るい業績見通しを謳っていましたが、実際には破綻に3年前には既に自転車操業状態だったとも言われています。

いわゆる、『実態のない事業報告書』

これは、2つ目の「営業出資金」のケースに類似しています。

もし独立した第三者が実施する『監査』を受けていれば、このような不正を未然に防ぐことができたのでしょうか?

いずれにせよ、今回のケースを通じて『監査』の社会的意義について改めて理解できた気がいたします。

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