粉飾すれば、給料・賞与が増える?

早いもので、今年も折り返し地点を迎えました。

日頃、情報収集を行うために以下のサイトを1日に数回は眺めるようにしています。上場企業のプレスリリースが一覧表示されるので非常に便利です。

例えば、7月1日 15:00に大興電子通信(東証2部)という会社が、「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」と題して、以下のリリースを発表しています。

このようなリリースが出るからには、良からぬ事が起こっている訳です。

そこで同社のサイトを閲覧したところ、6月14日付で調査報告書がリリースされています。

『大興電子通信』の不正会計について見ていきましょう

概要について

今回の事件ですが、「不適切な原価付替え」がキーワードです。

P13によると、原価の付替えは以下2つに分類できるようです。

●物品販売に係る原価の付替え
●外注費に係る発注段階における原価の付替え

前者の例ですが、端的にまとめると以下のような要領でしょうか。

 【原価付替え前】
 ○A案件:売上700、原価350、当期の売上
 ○B案件:売上400、原価150、来期の売上

 【原価付替え後】
 ●A案件:売上700、原価280、当期の売上
 ●B案件:売上400、原価220、来期の売上

ここでは、売上-原価=「差益」と呼んでいますが、このように原価を先送りし、当期の差益を水増しされている状況が発覚しました。

調査の結果、不適切な会計処理は、2013年3月期において、おおよそ67百万円(売上原価の増加)とのことです。

原因について ~不正の3要素から~

P22以降、原因分析が書かれています。

社員における原因について、不正の3要素から見ていきたいと思います。

【1、機会】
「不適切な原価付替え」をするためのシステム操作が、誰の承認を得ずとも簡単にできる状況にあったようです。

このような状況をリスクとして認識をしていたようですが、業務の効率性を下げることから、

●予防的統制 ⇒ ×
●発見的統制 ⇒ ○

としていたようです。
※一般的に統制の効果は、『予防的>発見的』と言われています

結果的には、発見的統制が機能していないため、不適切な原価付替えを許す機会を与えることになります。

【2、動機】
営業職の『人事考課』において、営業実績が賞与・昇給に大きく影響するのは、どこの会社でも共通すると思います。

大興電子通信の考課ウエイトですが、

●1級職(スタッフレベル)   ⇒ 賞与・昇給とも10%
●6級職(部長・支店長クラス) ⇒ 賞与60%、昇給50%

と上級職になるほど、差益達成率の考課ウエイトが高くなります。

つまり、

「粉飾してでも良い数字を出せば、賞与・給与が増える」

という構図になっていますので、動機の1つとなっていることは、否定できないところだと思います。

【3、正当化】

いわゆる開き直りですが、原価付替えを行った社員の多くは、
●部門の差益達成率を上げたかった
●部門のモチベーションを上げたかった
●部門の存在感を示したかった

と述べているようです。
これに対し、調査報告書には厳しいコメントが書かれています。

-自分の部門を守るために不正を働くというのは、自分の立場を守りたいがための『自己保身』であり、不正を働いてまで部門に貢献する、会社に貢献するなどというのは、『歪んだ組織論』と言うしかない。

-特に、高位の管理職であれば、管掌する部門のことだけでなく会社全体の事を考えて行動することが当然に求められており、部分最適に目を奪われて『全体最適を犠牲』にすることは、『管理職として不適格』であることを自認するに等しい。

「動機」について、もう少し見ていきましょう

P27に「差益達成のプレッシャー」について詳しく触れられているので、まとめてみたいと思います。

●厳しい財務状況

~2012年度の3期にわたり、営業キャッシュフローをマイナス計上したため、ゴーイング・コンサーン開示をしています。
また2013年3月期には、「過去勤務債務」の償却により、839,826千円を計上することから、黒字化のハードルが一気に高まるなど、正念場を迎えていたようです。※前年度の営業利益が240,751千円なので巨額ですね

●厳しい営業実績

定期的に開催される営業会議において、社内計画における差益達成度は以下の通り厳しい数値になっています。

○2013年2月8日 … 66.4%
○2013年3月8日 … 71.2%

この状況に対して、コメントをいくつか頂戴しています。

○マーケティング責任者から
必達着地数字は何が何でも達成しなければならない最低ライン。
絶対に達成しないと、前年並みも守れない。

○経営陣から
必達着地数字は生命線。足りないでは済まされない。
コンプライアンスを守り、確実に数字を上げる。

上記を踏まえ、2013年3月期の差益達成プレッシャーはそれまでの期よりも格段に強かったと言われています。(社員談)

数値達成のプレッシャーはどこの会社でも存在することと思われますが、それと同時に「不正を禁じるプレッシャー」も強くかけなければならないと締めくくられています。

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